掲示板に戻る
No:635 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part630 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/12/25 08:13:36 単表示 返信

スティビッツはベル研究所でリレー式加算器の研究をしていました。

そして"Model K"と呼ぶ加算器を開発します。

これは一桁の2進数を加算するもので、並べることで桁を増やすことができました。

ベル研究所は彼に予算とチームを与え、自動演算器の研究をさせることになります。


          ◇          ◇          ◇


そして3年後の1940年1月8日。

スティビッツは"Complex Number Calculator"と呼ばれる複素数の四則演算が可能な装置を完成させました。

そして本体をニューヨークに置いたまま電話回線で接続し、演算を行わせるデモンストレーションを行いました。

これは後の汎用機の形態(本体と端末に分かれて端末から操作する)の鼻緒となりました。


          ◇          ◇          ◇


その後彼は科学研究開発局の部門会議に出席し、用語としてのアナログの対比がパルス式であることに違和感を覚えました。

アナログが真空管に限らないカテゴリなのに対し、パルス式はリレーにほぼ限定されていたからです。

本質が「状態On/Off」で表すことから、パルス式という呼び方は用語に引きずられて技術的発想を狭めると考えたのかもしれません。


          ◇          ◇          ◇


そこで彼は2進数であることに着目し、2進数を主に表すようになったdigitから「digital」という用語を考案しました。

2進数コンピュータ=デジタルの始まりです。
  • No:636 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part631 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/01/01 17:58:21 単表示 返信

    このデジタルコンピュータは既に存在しているものに名前をつけただけで、これ自体に革新的な概念があった訳ではありません。

    しかし、これから開発するものが端的にどのようなものであるか? を表現するには最適ではありました。

    デジタルコンピュータを作る、と言えば基本的に真空管を使わない運用面でアドバンテージが有るものとすぐに共有できたからです。

    かくして単にコンピュータと言えば2進数で稼働するデジタル式、との認識が広まっていったのです。


              ◇          ◇          ◇


    しかもこの1940年から1950年代にかけては、半導体が猛烈な勢いで台頭してきてきた時代でした。

    奇しくも、と言いましょうか運命的必然と言いましょうか。

    特にちょうどこの時期に発明されたトランジスタとダイオードは、まさしくデジタルコンピュータに使われるために生まれてきたような存在だったのです──────


              ◇          ◇          ◇


    ダイオードは整流素子、トランジスタは増幅素子とも呼ばれます。

    これらが何故デジタルコンピュータに都合がいいかと言いますと・・・・・・

    トランジスタの増幅機能が=で電流の流れる(On)流れない(Off)を実現できるからです。


              ◇          ◇          ◇


    トランジスタには三本足があり、それぞれエミッタ(E)ベース(B)コレクタ(C)と呼ばれます。

    回路的にはE-BとE-Cをそれぞれ繋いで電源に接続し、E-B間の電流電圧の変化が数百倍に拡大されてE-C間に反映されます。

    つまり上がり幅を無視して一定以上の振り幅があった場合をOn、それ以下をOffと定義すれば。

    簡単に01の二進数が表現できるという訳です。
  • No:637 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part632 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/01/08 08:11:44 単表示 返信

    トランジスタは二進数の表現の他にも、文字通り「スイッチ」としての役割も果たします。

    つまり加算減算乗算除算それぞれの回路へデータを流すよう「指示」することができる訳です。

    ついでにデータの流し先も指定することができます。

    この「指示」も二進数で表現され、どの数値がどの動作をするかは予め設計して、そのように回路を配置しておきます。

    これこそがデジタルコンピュータのプログラミングとなるのです。


              ◇          ◇          ◇


    ちなみに。

    半導体もう一つの雄であるダイオードは、論理演算を実現するために使います。

    ダイオードの動作はとても単純でして、「一方向にしか電流を通さない」ただこれだけです。

    「それトランジスタスイッチと何が違うの」と思われるでしょうが・・・・・・

    トランジスタとの違いは「他からの入力がないから動作は常に一つだけ」となります。


              ◇          ◇          ◇


    「それ何の意味があるの」と思われるでしょうが・・・・・・

    これはこれで立派な役目があります。

    それは「専用の論理回路を組むのがとても簡単」ということです。


              ◇          ◇          ◇


    論理回路基本三種の内、最もよく使われる論理和と論理積はダイオードたったの二個だけで実現できます。

    トランジスタでも出来なくはありませんが、トランジスタは線が三本ありますのでその分回路が複雑になります。

    電線が2本から6本に増えますので、桁が増えれば増えるほど差は膨れ上がるのです。

    特に二進数は桁の膨れ上がる勢いが十進数とは比べ物になりませんから、電線の数を減らすというのは大変重要なのです。
  • No:638 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part633 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/01/15 08:11:29 単表示 返信

    という訳で。

    ENIAC系列の真空管式コンピュータが次々開発されていく裏で、トランジスタ・ダイオードを使用する第2世代型コンピュータの萌芽は確実に芽吹いていました。

    これら半導体算術論理回路と二進数デジタルコンピュータは極めて相性が良く。

    真空管式第1世代型コンピュータは10年足らずで衰退して行くことになります。


              ◇          ◇          ◇


    世界最初のトランジスタ第2世代型コンピュータは1953年11月にマンチェスター大学で稼働したものと言われています。

    92個の初期型トランジスタと550個のダイオードを使用し、48ビットで演算が出来ました。

    この初期型トランジスタというのは点接触型とも呼ばれ、逆三角形の金属板が四角形の金属板の真ん中に突き刺さっているような形をしており・・・・・・真空管と大差ないスペースを食う代物だったようです。

    不安定そうな見かけに違わず、かなり信頼性は低かったようで・・・・・・

    平均故障時間は僅か1.5時間だったと言います。


              ◇          ◇          ◇


    まあもっともENIACは6分に1個どれか真空管が切れていたらしいので、これでも初期型としてはまだマシな方ではあります。

    一応ENIACの名誉のために言っておきますと、トランジスタコンピュータが出始めた1950年代では2日に1個まで寿命が伸びています。

    当時で比較すれば、まだまだ真空管式コンピュータは現役であったのです。


              ◇          ◇          ◇


    ついでに言いますとマンチェスター大学のトランジスタコンピュータは一部に真空管を使っていたので、厳密な意味では第2世代ではありません。

    初の完全なトランジスタコンピュータは、1954年10月に真空管式であったIBM604をトランジスタに置き換える形で設計開発されました。

    真空管1250本をトランジスタ2000個にリプレースし、筐体は半分になり電力は僅か5%にまで縮小されました。

    第2世代型が第1世代を凌駕するものであると、誰の目にも明らかになったのです。
  • No:639 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part634 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/01/22 08:11:32 単表示 返信

    とまあこのようにして。

    計算機の演算能力は年々爆発的に向上するようになり。

    もはや数万回程度の試行で解けてしまうような暗号は意味を成さなくなりました。

    何しろENIAC前の半歯車式解析機Colossusですら秒間5000文字の処理を可能としていました。

    数万程度では文字通り瞬く間に解析が終わってしまったのです。


              ◇          ◇          ◇


    そのため、一時期暗号は方式そのものを隠す方向に躍起になっていました。

    マイナー民族言語を使ったり、訛りの酷い方言で会話したりなんてのもありました。

    しかしこれも知られてしまえばそれまで。

    いよいよ解読を防ぐ手立てがなくなって来た1970年代に、一つの画期的な発明が成されます。

    換字-転字暗号 (Substitution-permutation cipher)と呼ばれる暗号方式です。


              ◇          ◇          ◇


    これは既知の暗号である換字式と転置式を組み合わせたもので、予め定められた文字数毎に方式を(一見)ランダムに切り替えるというものです。

    既存の暗号の共通の欠点として、統計的手法を取られると弱いというのがありましたが・・・・・・

    それは必ず『十分な長さのサンプル』が前提となります。

    換字-転字暗号は一見長文でも実態は細切れにされた全く違う暗号が連なってるだけなので、統計的手法は原理的に役に立ちません。


              ◇          ◇          ◇


    この「ぶつ切り文字列の集合体」はブロック暗号式とも呼ばれ、現代に至るまで通用する優れた暗号技術の基礎となりました。

    流石に中身の暗号方式まで当時のままではありませんが・・・・・・

    しかし基本理論が変わっていないのも、また事実です。
  • No:640 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part635 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/01/29 08:12:42 単表示 返信

    ところで。

    実はエニグマが登場した辺りからブロック暗号が登場するまでの暗号解読法は全数検索、要するに総当たり力技でした。

    解読機のマシンパワーが強力すぎて、終盤になると暗号方式を考慮する必要すらなくなっていたのです。

    なので方言やらで、解読した元文からして読めなくする等という邪道も生まれた訳ですが・・・・・・

    所詮は邪道、暗号強度以前に使い勝手が悪すぎてすぐに廃れて行ったのです。


              ◇          ◇          ◇


    ちょっと考えればわかることですが・・・・・・

    方言を暗号とする場合、送り手も受け手も固定化されてしまいます。

    固定化されるということは、替えを用意することが困難であることを意味します。

    それこそラブレターやらの私的文書程度なら問題ありませんが・・・・・・

    平準化が至上命題の一つである軍隊では、やはり標準にはなり得ないものだったのです。


              ◇          ◇          ◇


    という訳で。

    暗号技術は原点に帰ってきましたが・・・・・・問題が一つ。

    それはブロック暗号も結局暗号鍵で暗号化する

    つまりは暗号鍵をどう送るか? に問題もまた回帰してきたのです──────


              ◇          ◇          ◇


    この問題に関しては。

    ぶっちゃけた話、現代においても抜本的に解決に至ってはおりません。

    暗号解読時には「必ず」取り出して使わなければならない関係上、全く人目に触れないようにするのは不可能だからです。

    例え目で見てわからない機械的・電気的なものであったとしても、です。

    暗号鍵の物理的な所在がわからなかろうが、使用して暗号を解読する機能動作が「人の手の届くところにある」のは避けられません。

    原理的にそうなので・・・・・・

    「暗号鍵を使わずに復号でき、しかも第三者にはそれが出来ない」等というトンチのような方法でも発明されない限り、どうしようもないでしょう。
  • No:641 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part636 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/02/05 08:11:53 単表示 返信

    しかし。

    需要あるところ供給あり。

    厳密には違いますが・・・・・・かなり近いところまで来ている技術は存在します。

    ある意味原点に立ち返ったとも言えるそれは、公開鍵暗号と呼ばれます。


              ◇          ◇          ◇


    暗号史に革命をもたらした、ヴィジュネル暗号を覚えていますでしょうか?

    暗号変換を変換マップだけに頼らず、暗号鍵という新たな要素を加えて表と鍵のどちらかが漏れても解けないようにした多要素暗号のはしりです。

    これまでは暗号表=変換式で、ここを複雑化することで難読化をして来ましたが・・・・・・

    ヴィジュネル暗号の真の価値は「多要素化」にありました。


              ◇          ◇          ◇


    それを再発見した研究者達は、鍵の複数化に取り組み始めます。

    様々な方式が浮かんでは消える中・・・・・・

    二人の研究者が公開鍵暗号の理論を提唱します。

    ディフィー・ヘルマン鍵共有法と呼ばれるそれは、暗号界に激震をもたらしたのです。


              ◇          ◇          ◇


    それまでの泡沫理論は、結局「暗号鍵がバレたら終わり」の根本的問題点を克服出来ませんでした。

    ヴィジュネル暗号も暗号表と暗号鍵の2つが揃わないと解読が難しいだけで、両方バレてしまえば誰でも解読できるには変わりありません。

    送る方も受ける方も学者センセーでもなんでもないのですから、むしろ誰でも解読できないと困ります。

    しかし、です。

    実はこれまで隠れたリスクとして送り側と受け側、どちらか一方がバレただけで解読されてしまうというものがあったのです。
  • No:642 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part637 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/02/12 07:01:35 単表示 返信

    まあ考えてみれば当たり前の話で。

    暗号化・復号化というものはそもそも「手順と必要なものがわかってれば『誰でも』やれる」ものであるからです。

    ごく親しい者同士でだけ通じればいいような場合でも「二人しか知らない」何某かが加わるだけで、それは「必要なもの」に含まれます。

    当然、その二人しか知らないことが知られれば『誰でも』解読できることになります。


              ◇          ◇          ◇


    先程ちらりと触れたマイナー言語・方言でやり取りするというのも広義にはこれに入ります。

    送信側・受信側のみが共通で持っている何かであることが前提の方法。

    これを共通鍵暗号といいます。

    今までの暗号は全てこれでした。


              ◇          ◇          ◇


    しかし。

    DH法はその常識をぶち壊すものでした。

    ある特別な計算法により、暗号化する鍵と復号化する鍵を分けることに成功したのです。


              ◇          ◇          ◇


    まず送信者は2つの鍵を同時に生成します。

    これをキーペアと言い・・・・・・一方を公開鍵、もう一方を秘密鍵と呼びます。

    送信者は公開鍵を使って暗号化しますが・・・・・・

    画期的なのは、公開鍵では元の平文に戻すことが出来ないというところなのです。
  • No:643 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part638 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/02/19 07:01:55 単表示 返信

    これだけでも十分凄いことですが・・・・・・

    DH法の真価は「復号化に必要な鍵そのものを送る必要が一切ない」点にあります。

    何がどうなってそんな魔法みたいなことが出来るのかは正直さっぱりわかりませんが・・・・・・

    種も仕掛けもあるんだよ、とは解説したアリスの弁です。


              ◇          ◇          ◇


    よくわからないながらもざっくり要点らしきものを列挙しますと。

    1.DH法は必ず1対1で行う
    2.双方が公開鍵/秘密鍵の生成をする
    3.送信者は公開鍵と秘密鍵で「とある演算」を行い、受信者に送りつける
    4.受信者は送られてきた公開鍵と自分が生成した秘密鍵で「送信者と同じ演算」を行い、送信者に送り返す
    5.送信者は送られてきた受信者の計算結果と公開鍵&秘密鍵で「特別な演算」を行う
    6.受信者も送信者と同じく送信者の計算結果と公開鍵&秘密鍵で「特別な演算」を行う
    7.さすればあら不思議、5.と6.の「特別な演算結果」は『必ず』同じ値になる

    よくわかりませんがこういうことらしいです。


              ◇          ◇          ◇


    ・・・・・・いやホント、何がどうなってこんなことが起こるんでしょうかね?

    説明してた時に対数がどうたらだの離散が何だだの言ってた気がしますが。

    いくら可憐で儚く賢い深窓の令嬢のわたくしでも、高等数学の理解を小学生に求められても困ります。

    ・・・・・・誰ですか年齢詐欺等とほざきやがるのは?

    OHANASHIするから表に出やがれ、ですわ。


              ◇          ◇          ◇


    おほん。

    まあとにかく、このような高度なカガクの魔法の仕業によって、暗号化技術は明白に次のステージへと進みました。

    人力では絶対に突破できない次元に突入したのです─────────
  • No:644 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part639 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2025/02/26 08:12:26 単表示 返信

    ところで。

    これまでの説明で違和感を覚えませんでしたでしょうか?

    何に?

    DH法で得られるのは直接送りつけてない『ある数字』であって暗号化すべき平文が何処にも出てこないのです。


              ◇          ◇          ◇


    実を言いますと。

    DH法は公開鍵暗号を使いますが・・・・・・

    厳密に言うと所謂暗号方式ではありません。

    これは安全に暗号鍵を共有する方法であって、平文を暗号化するものではないからです。

    なのでこの後、共有生成した暗号鍵を使って別の暗号化を行います。


              ◇          ◇          ◇


    つまり暗号化の本体は共通鍵暗号のままということです。

    実は公開鍵暗号を使用して直接平文を暗号化する方式もなくはないのですが・・・・・・

    実用的ではない幾つかの理由があって普及には至っていません。


              ◇          ◇          ◇


    その幾つかの理由の中でも最たるものが遅いというものです。

    現代における最新の共通鍵暗号に比べて千倍近く遅いと言われており、少なくとも通信用途には全く向いてないと言わざるを得ません。

    もっとも短文には使えなくもないので、それこそ機密伝令にはたまに使われることがあるようですが・・・・・・

    わたくし達が目にすることはほぼほぼありませんわね。