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No:505 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part500 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/06/29 09:47:00 単表示 返信

まあもっとも。

コリニー提督も神敵(プロテスタント主観)には残虐非道超人だったらしいので、人格者と言うにはちと憚られるようでしたが。

ともあれコリニー提督は第三次ユグノー戦争終結により宮廷に復帰。

ちょっど八十年戦争真っ盛りのネーデルランド改革派(勿論プロテスタント)を支援してスペイン叩くべし等と主張してはカトリーヌ他廷臣にウザがられたりしながら2年程を過ごすことになります。


          ◇          ◇          ◇


さて。

コリニー提督宮廷復帰から2年が過ぎた1572年8月24日。

歴史上悪名高い一つの事件が起こります。

後の世に言うサン・バルテルミの虐殺。

宗教戦争を決定的に泥沼化させ、200年にも渡る禍根を残した事件の幕が上がろうとしていたのです。


          ◇          ◇          ◇


この歴史に残る惨劇を語る前に、コリニー提督の他に数人の重要な登場人物を紹介しなければなりません。

一人はマルグリット・ド・ヴァロワ。

またの名を稀代の淫婦或いはフランス史上最大の悪女

アレクサンドル・デュマ・ベールの小説『王妃マルゴ』の主役その人であり、カトリーヌの三女です。


          ◇          ◇          ◇


彼女は後の創作ではそれはもうエライ言われようなんですが・・・・・・どうも全くの事実無根ではないようでして。

少なくとも浮名を流した男達は大体破滅しています。

もっとも。

この後直接悲劇に繋がる強引な政略結婚がなければ・・・・・・

もしかしたら別の歴史があったかも知れません。
  • No:506 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part501 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/07/06 09:49:59 単表示 返信

    この王妃マルゴと深い関係(意味深)があり、後の惨劇の重要人物となる人物がもう一人。

    ギーズ公アンリ1世。

    先王フランソワ2世の時代に宮廷を牛耳っていたあのギーズ兄の息子です。


              ◇          ◇          ◇


    彼は父が(コリニー提督に)暗殺された後、虎視耽々と復讐の機会を伺っていました。

    しかし今のギーズ家ははっきり言えば落ちぶれ貴族

    旧教派として国王軍側について戦場には出ていましたが、これまで首級を窺える位置には終ぞ恵まれませんでした。

    そんな熏っているギーズ家に、ある日悪魔の囁きが届けられるのです。


              ◇          ◇          ◇


    その悪魔に傾倒していた何処ぞの王母について語る前に、もう一人二人重要人物を紹介しましょう。

    一人はジャンヌ・ダルブレ。

    現ナバラ女王であり、暗殺された先代ギーズ公プロテスタント版とも言うべき、ガチガチのユグノーです。


              ◇          ◇          ◇


    彼女はこれまでのユグノー戦争でもプロテスタントの盟主として君臨し、ただのクーデターで終わらせない権力的な後ろ楯として機能してきました。

    当然カトリーヌにとっては目の上のたんこぶどころか癌細胞と言って過言ではありません。

    しかし度重なる武力闘争で事実上ユグノーに屈してきたとあっては、方向転換をせざるを得ません。

    そこでカトリーヌは、メディチ家伝統の方策を取ることにします。

    即ち、政略結婚です。
  • No:507 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part502 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/07/13 10:13:57 単表示 返信

    しかもただの政略結婚ではありません。

    プロテスタントの名目上の首魁、ジャンヌ・ダルブレの息子アンリとカトリックの守護者カトリーヌの三女マルグリットとの政略結婚。

    文字通りついこの間までお互いを不倶戴天の仇敵と罵り、虐殺を繰り返してきた同士が明日から俺達はファミリィだ!と肩を組め、と言っているのです。

    いくら昨日の敵は今日の友、利益が合致するなら喜んで仮面を被る貴族としても物には限度というものがありました。


              ◇          ◇          ◇


    そもそもの話。

    旧教vs新教の血で血を洗う戦いは大規模衝突(ユグノー戦争)だけ数えても三回目が終わったばかりです。

    しかも旧教(国王陣営)がかなり足元見られた和平()条約を結んだ直後に「これから仲良くしましょ」等と猫撫で声出されてもサブイボ立つだけと言うもの。

    実際婚約の段取りしたいから宮廷に出てこいと圧力をかけるカトリーヌにジャンヌは最初鼻で笑ったと伝えられています。

    誰がどう見たって仇敵の首級狙いの罠に決まってますからね。

    誰だって断ります わたくしだって断ります。

    何なら氷水でも送り付けてこれで都合いい夢から覚めなさいなとでも言ってやりますわええ。


              ◇          ◇          ◇


    しかし結局、紆余曲折と貴族流の迂遠な罵倒合戦の果てに。

    ジャンヌは息子と王妃マルゴとの結婚を了承してしまいます。

    宗教対立はもう10年を数えようとしており、新旧融合和解の象徴となるべきという正義のタテマエに抗いきれなかったのです。

    現代の後知恵で考えても、他の選択肢が取れたかというと難しいところではあります。

    ただまあ・・・・・・

    他に選択肢がない状況というものは、往々にして詰んでると同義です。

    残った選択肢が最悪であっても、其処に向かうしかないのは悲劇でありましょう。


              ◇          ◇          ◇


    さて。

    政略結婚の当事者たるジャンヌの息子アンリですが、この人も中々どうして波乱の人生を送っています。

    といいますかここからが波乱の本番です。

    ただまあ、なんだかんだでこの時代で50代まで生き長らえたのですから割と豪運な人とは思います。

    周囲がバタバタ死んでいきますから特に。
  • No:508 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part503 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/07/20 09:22:59 単表示 返信

    ともあれ。

    左手を差し出してる裏で右手にメイス持ってるような状況下、どうにかアンリとマルゴの縁談が纏まるかに見えた矢先。

    えらいスキャンダルが発覚します。

    何処の悪役令嬢かな浮き名を流していたマルグリットに『本命』がいたのです。

    そのお相手の名はギーズ公アンリ1世。

    この直後に控えるサン・バルテルミの虐殺の主要人物です。


              ◇          ◇          ◇


    そもそもギーズ家と言えば、このクソめんどくさい宗教戦争の引き金をトリガーハッピー気味に引いた張本人であり。

    カトリーヌにとっては人が夫を亡くして悲しみに暮れてる時に権力掠め取った怨敵でもあります。

    現王になってようやっと片付いたと思ったらまた出てきやがったのかと考えても不思議はありません。

    ギーズ家は未だに旧教勢力に影響力を保持しており、さっさとこの下らない内紛終わらせたいカトリーヌにとってはあらゆる意味でありえない嫁がせ先だったのです。


              ◇          ◇          ◇


    なので。

    マルグリットの熱愛発覚した時のカトリーヌの剣幕はそれこそ悪魔憑きと呼んでも不足ないものだったようでして。

    寝室から文字通り引きずり出すと、殴る蹴るの暴行に加えて髪持って振り回して引っこ抜いたと伝えられています。

    もう童話の継母並の所業ですが、これで正真正銘実の娘というのがあらゆる意味で救われませんわ。


              ◇          ◇          ◇


    ・・・・・・まあ。

    これがお話でしたら駆け落ちでも何でもするところだったのでしょうが。

    結局マルグリットは、後の異名の通り王妃マルゴとなり。

    1572年8月18日にノートルダム聖堂で盛大に挙式されます。

    ・・・まあ新郎が何故か式場の外にいたり、新婦が不貞腐れて定番の「誓いますか」にそっぽ向いた挙げ句に兄の国王から首根っこ引っ掴まれて強制的に頷かされたりしましたが。

    正式に結婚が成立したことには変わりませんわ、ええ。

  • No:509 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part504 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/07/27 09:31:33 単表示 返信

    さて。

    ともあれ役者は揃いました。

    アレな結婚式から4日が経った1572年8月22日。

    遂にカトリックとプロテスタントの間に決定的な断絶を起こす一連の事件が始まります。

    1世紀にも渡って欧州に影を落とす宗教戦争の転換点。

    サン・バルテルミの虐殺が幕開けるのです──────


              ◇          ◇          ◇


    運命のその日。

    未だ続く結婚祝賀会の帰り道。

    ほろ酔い気分で数名の護衛のみを連れて宿に引き返す途中のコリニー提督の耳朶と肘を銃声が叩きました。

    取り巻きは色めきだって犯人を探し、すぐに近くの窓から煙をたなびかせている火縄銃を発見しました。

    すぐさま乗り込むも犯人の姿はなく。

    ひとまず倒れ込んでうめき声を上げるコリニー提督の治療を優先し、近くの宿舎へと運び込んでいったのです。


              ◇          ◇          ◇


    不幸中の幸い・・・・・・と言えるかはこの後の展開を考えると微妙ですが。

    銃弾は急所を外れており、コリニー提督は一命を取り止めました。

    急報を受けたシャルル9世はすぐさまコリニー提督の横たわる宿舎に自ら赴くと、病床の彼の手を取って涙ながらに「犯人には必ず報いをくれてやる」と誓ったそうです。

    ちなみにカトリーヌも同席していましたが・・・・・・

    彼女は終始能面の無表情を被り、内心を決して漏らしませんでした。

    そして狙撃現場から馬の足跡がギーズ家に続いていたという捜査員からの報告を受けても、何のリアクションも起こさなかったのです。


              ◇          ◇          ◇


    この反応の薄さと、コリニー提督が死んで誰が一番得するか? を合わせて考えた時・・・・・・

    黒幕第一容疑者は、間違いなくカトリーヌでしょう。

    しかし彼女は狡猾で、言葉巧みに焚き付けても決して物証を残すような真似はしませんでした。

    こころは権謀術数で伸し上がったメディチ家の面目躍如と言ったところでしょうか。

    だがしかし。

    策士を標榜するものは往々にして策に溺れるもの。

    この後事態は、誰にも制御できない暴走へと突き進んでいくのです。
  • No:510 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part505 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/08/03 13:03:52 単表示 返信

    まず前提として。

    コリニー提督以下ユグノー貴族らは、結婚式参列のため自嶺軍を率いてパリに来ています。

    これ自体は当時普通のことで、むしろ少数の護衛だけで来る方が恥とされる風潮がありました。

    ましてや先立っての戦争は上層部がある意味勝手に手打ちにしたもの。

    真の意味での和解などとは程遠かったのです。


              ◇          ◇          ◇


    そんな情勢への不安もあってか。

    コリニー提督軍だけでも4000を数える陣容がパリ郊外に屯していました。

    勿論カトリック貴族も集結していましたが・・・・・・何しろここは本拠地も本拠地、花の首都パリです。

    もしこの場で戦争が再発でもしたら、著しく不利なことは否めません。

    ユグノー陣営は目と鼻の先どころか喉に剣先が食い込んでいるような状態です。

    市民の避難など間に合う訳がありません。

    そう。

    既に導火線は極限まで短くされ。

    後は爆発を待つばかりになっていたのです。


              ◇          ◇          ◇


    それにパリという街自体がフランスの旧教総本山のようなところもあります。

    元々プロテスタントはドイツに端を発したキリスト教一派です。

    歴史的に長年ドンパチやってきた因縁の相手であり、主要構成民族もラテン系とゲルマン系で違います。

    ドイツがどんどん新教にかぶれ染まっていく中、対抗心もあったかと思われます。

    そんな訳で。

    大多数のパリ市民はプロテスタントをよく思っておらず。

    コリニー提督暗殺未遂を機に、ユグノー軍がパリに雪崩込んで皆殺しにされるのではないかと恐怖で眠れない夜を過ごしていたのです。


              ◇          ◇          ◇


    ちなみに。

    治安を担うパリ総督モンモランシー公フランソワは結婚式の直後にパリから遁走しています。

    中々の危機察知能力ですが・・・・・・仮にも責任者が真っ先に逃げ出すというのはどうかと思いますわよ?

    なんだかんだで殺害されずにベッドで死を迎えたところを見ると、生存能力は本物だったんでしょうけど。

    生物としては優秀でも、上には据えたくない人材ですわね。
  • No:511 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part506 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/08/10 20:24:20 単表示 返信

    さて。

    一夜明けて1572年8月23日、カトリーヌは愛する息子シャルル9世の元を訪れます。

    昔結核を患って以来病弱なままの弱気王は、案の定ひどく落ち込んでいました。

    しかし母后は容赦なくあるリストを目の前に広げます。

    24人とも36人とも言われるそれは──────

    コリニー提督暗殺未遂事件の報復としてパリ占領を企むとされた、結婚式に参列していたユグノー貴族の粛清リストだったのです。


              ◇          ◇          ◇


    当然の如くシャルル9世は渋りました。

    今更言うまでもないことですがコリニー提督はプロテスタントの事実上の盟主であり、ユグノー貴族らは彼の仲間です。

    彼らを粛清するということは父と呼ぶコリニー提督への真っ向からの反逆です。いやまあ仮にも権力の頂点たる国王が反逆等というのもおかしな話ではあるのですが。

    政務のほとんどをカトリーヌに取られ、長年操り人形と化していたシャルル9世の情緒が発達してなくても致し方ないかも知れません。

    いい歳して稚気の抜けきらない王もまた、この惨劇を構成する役割を担ったのです。


              ◇          ◇          ◇


    そんな王に、母カトリーヌはあらゆる手段を用いて説得を仕掛けます。

    最初は「新教徒は外患である」路線で攻めたといいます。

    実際過去3度の戦役においてユグノー軍はイングランド女王エリザベスの支援を受けており、イングランド軍がル・アーブル他幾つかの都市を占領したことすらあります。

    この脅威は客観的に見ても正しく、説得材料として十分と思われたのですが・・・・・・

    シャルル9世は、これをもってユグノー粛清命令を承諾することはなかったのです。


              ◇          ◇          ◇


    勿論コリニー提督への個人的感情があったことは想像に難くありません。

    しかし現時点においてフランス領土内にイングランド兵の影はなく。

    些か暴論ではありますが「イングランド恐るに足らず」という主張にもある程度の根拠があると言わざるを得ません。

    イングランド以外の因縁の国々もフランス以外の相手で忙しく・・・・・・

    この時点に限っては、外患は言うほど脅威ではなかったのです。
  • No:512 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part507 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/08/17 09:27:13 単表示 返信

    まあ実際問題。

    父と呼ぶコリニー提督を害した犯人を総力を上げて探し出し、報いをくれてやると意気込んでいるところにその被害者の身内(ユグノー)を粛清しろとかおまえは何を言っているんだ案件でありました。

    こんなどうでもいいことをうだうだ言ってる暇があったら、その足で犯人探してこいと考えて何ら不思議はありません。

    一方。

    母后カトリーヌとしては一刻も早くユグノー(コリニー提督含む)を排除しなければならない理由がありました。

    それは数刻前。

    カトリーヌが昼食を取っていた時間まで遡ります。


              ◇          ◇          ◇


    いつもの場所でランチしていた母后は、乱入にも等しい暴挙で乗り込んできたユグノー貴族らと相対します。

    血気盛んな彼らの言い分を簡潔に纒めるとコリニー提督襲撃犯を即刻つるし首にしろでした。

    まあ捕まればそうなるでしょうが、この時点では犯人の目星もついてない状態です。

    常識が欠片でもあればそのくらい分かりそうなものでしたが・・・・・・

    彼ら的にはどうも、宮廷が暗殺指令出したと思い込んでいる様子だったのです。


              ◇          ◇          ◇


    黒幕が王族なら、なんやかんや理由をつけて犯人無罪放免は有り得る話でした。

    しかし繰り返しますが、この時点では犯人の顔も名前も分かっていない段階です。

    来るなら実際に放免された後に来るべきで、目星もついてない今押し掛けてくるのは早漏にも程があるというもの。

    ただでさえ会食は政治的な意味を持ちます。

    アポ無しで押し入ってくるなど無礼討ちされても文句は言えない蛮行です。

    塩対応で済んだだけ有り難く思えと言ったところです。


              ◇          ◇          ◇


    しかし怖いもの知らず向こう見ずの若気の至り逹は、ここで言ってはならないことを言ってしまいます。

    「お前らが犯人を庇い立てするなら、パリを焼き払ってでも報いをくれてやるぞ」と。

    この稚拙な『脅迫』によって、カトリーヌは危機感と共に粛清の絶好の口実を得てしまったのです。
  • No:513 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part508 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/08/24 17:13:24 単表示 返信

    本来はプロテスタントに寛容(というかどうでもいい)スタンスだったカトリーヌも、第二次ユグノー戦争の導火線となったモーの奇襲からすっかりアンチになってしまっていました。

    割とお馴染になったヴェネツィア大使に「ユグノーに期待できるのは欺瞞だけ」とか愚痴ってたくらいです。

    直近の第三次ユグノー戦争では煮え湯を飲まされたと言っても過言ではありません。

    まあそんな状況だからこそ嵩に懸かってたと言いますかぶっちゃけ調子に乗ってたきらいはあります。

    当時でも見るものが見れば阿呆かこいつら案件と思われますが・・・・・・

    諫める暇もなかったのが歴史の悲劇というものでしょう。


              ◇          ◇          ◇


    まあそういう訳で。

    ノータリンの戯れ言だろうとは頭の片隅で思っていても、実際ユグノーは度々軽挙妄動繰り返していましたのでやらないとは言い切れません。

    それに、ピンチこそチャンスではありませんが・・・・・・

    コリニー提督の他にもユグノー軍有力貴族が相当数集まっている今、奇襲を仕掛けるまたとない機会でありました。

    それこそ、ここを逃せば二度と無いくらいには。


              ◇          ◇          ◇


    そんなこんなで、カトリーヌとしては是が非でも愛する息子に首を縦に振らせなければなりませんでした。

    泣き落とし脅迫何でもありで説得しても芳しい反応寄越さないシャルル9世に・・・・・・

    カトリーヌは遂に、諸刃の宝剣を抜いたのです。


              ◇          ◇          ◇


    いよいよ業を煮やしたカトリーヌは、その後の政治的悪影響を知りつつ叱責しました。

    「息子よ、貴方がそうやってぐずぐずしてたらギーズ公がカトリック陣営纏め上げてユグノー粛清に向かいますよ!
     そうなったらどうなるか!
     パリの民はこぞってギーズ公を持て囃し、私達王家は見捨てられるでしょう!
     私達は宮殿を追い出され、ギーズ公が堂々と玉座に座るでしょう!
     貴方はそれでいいのですか!」

    それを聞いた当代フランス国王は懊悩し、煩悶し・・・・・・

    唐突に立ち上がって叫ぶのです。

    「そうだ皆殺しだ! 皆殺しにしろ!!」

    と。

    これこそが史上屈指の惨劇の狼煙。

    サン・バルテルミーの虐殺が今、幕開けたのです──────!!
  • No:514 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part509 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2022/08/31 09:31:54 単表示 返信

    明けて1572年8月24日。

    前日深夜から日が変わった頃に、パリ市政当局が密かに招集されました。

    彼らに与えられた任務は───パリの門をすべて閉ざし、プロテスタント首脳陣を袋の鼠にすること。

    更に市民に武装令を出し、ユグノーの報復に備えさせました。

    ・・・この命がなければ、犠牲者はもうちょっと少なかったと考えるのは後世の傲慢でしょうかね?

    もっとも、この時のパリ市民はコリニー提督暗殺未遂の報復を恐れていましたから・・・・・・

    結局は同じことだったかも知れません。


              ◇          ◇          ◇


    そして8月24日未明。

    手負いのコリニー提督が安静にしている宿の前にギーズ一派が集結していました。

    彼らが「宮廷からの使者である」と名乗ると、見張りの手兵は何の疑いもなく襲撃者達を中に招き入れました。

    ・・・まあ、ギリ嘘は言ってません。

    彼らは錦の御旗ならぬ正式な命令を受けていたのですから。

    そして。

    マヌケにも殺戮者を入れてしまったコリニー提督の部下達は、提督諸共文字通り血祭りに上げられたのです──────


              ◇          ◇          ◇


    重症で深い眠りに落ちていたコリニー提督は、賊に気付くことなく一瞬で首を狩られました。

    胴体は窓から投げ棄てられ、首級は戦果として持去られました。

    道端に打ち捨てられた遺体は暴徒と化したパリ市民に市中引き回しの上八つ裂き、川に投げ込んだ後引き上げて絞首台に吊るして焼き討ちしたと伝えられます。

    ・・・・・・もう何と言いますか。

    お前らの血は何色だと問い詰めたくなりますわ。

    まあ市民と言いつつギーズ一派が混じっている気はすごくしますが。

    それにしても誰か止めなかったんでしょうか。

    これで死後天国に行けると本気で信じてたんでしょうか。

    正直言って、想像の埒外ですわ。


              ◇          ◇          ◇


    しかし。

    この惨たらしさすら、この歴史的大虐殺の序章でしかありませんでした。

    この地上の地獄は5日間にも及び、少なくとも2千人にも及ぶ死者が出ました。

    重軽傷者は恐らく計測不能です。

    そして血に餓えた信徒共はパリだけに飽き足らず、全土に殺戮の嵐を撒き散らしていくのです。