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No:605 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part600 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/05/29 08:50:53 単表示 返信

ともあれ1571年9月7日。

ノーフォーク公はタイーホ投獄されました。

執拗な取り調べに対しノーフォーク公は容疑を一切合切否認し続けます。

まあ多少後ろめたい部分があったとしても認める訳には行きませんわよね。

取り調べやってる側が明白に敵なら尚更です。


          ◇          ◇          ◇


四面楚歌の立場に立たされたノーフォーク公は、親愛なる女王陛下に命乞いを上奏します。

どの程度の勝算があったかは本人のみぞ知るですが・・・・・・

わたくしは結構あったんじゃないかと思っています。


          ◇          ◇          ◇


一つは海外旧教勢力が何らかアクション起こすだろうという予測。

一応自分カトリックということになってますし、北部貴族処断で女王破門に走ったローマ教皇やら進行予定を(半ば無理矢理)聞かされていたスペインやらが動き出すのに期待するのはそう間違ってなかったと思います。

まあもっとも、そうはならなかったのですが。


          ◇          ◇          ◇


もう一つは、一応残存している旧教系貴族が宮廷で働きかける可能性。

こっちはあったら儲けもの、といった感じでしょうか。

何故なら旧教系貴族は自分(ノーフォーク公)こそが最大派閥で、他はまあ木端は言い過ぎとしてもセシル派に対抗できる等とは思っても見なかったことでしょう。

まあ、追い詰められたらそんな事も言ってられないと思いますが・・・・・・

どうもそちらに関しては、積極的にも消極的にも動いた気配がありません。

もしかしたらそんな動きをすれば叛意確定されると思ったかも知れません。
  • No:606 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part601 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/06/05 08:44:36 単表示 返信

    ついでに言いますと。

    直近の北部貴族の乱でも謀反疑われて馴染のロンドン塔にボッシュートされましたが、結局釈放された成功体験もあったかも知れません。

    この時はノーフォーク公が実際に北部貴族を説得する活動してたからで、叛意がないのは明白だったからなのですが・・・・・・

    今回のリドルフィ事件では、提案蹴っただけでスペインやらを説得するような行動一切してなかったので無理筋だったと思います。


              ◇          ◇          ◇


    まあ言ってしまえば油断、だったのでしょうか。

    前回処刑を思い止まらせていたのがセシルだったこともあり、「所詮は後ろ盾もない孺子よ。大貴族たる儂をどうこう出来るはずもないわ」と慢心したかも知れません。

    しかし前回は火種になるものが精々メアリーとケコーンを企んだくらいで、大火事にするには如何せん可燃物がなさすぎました。

    その現実を客観的に捉え臥薪嘗胆を虎視眈々と狙っていたセシルと。

    表面上の事実で安堵し慢心したノーフォーク公の違いがこの土壇場で出た、と言えるかも知れません。


              ◇          ◇          ◇


    実際、今回のセシルは周到過ぎるほどに周到でした。

    本丸のノーフォーク家に出入りする者全てのチェックは勿論のこと、泳がせていたリドルフィが接触した者にも網を張っていました。

    ノーフォーク家を行き来する手紙は密かに検閲されていたのですが、暗号文で書かれていたために中身がわからなかったのです。

    なので、リドルフィが同じ暗号を使っている可能性に賭けていました。

    無論オールインベットではなかったでしょうが・・・・・・

    腐っても大貴族のノーフォーク家のガードは固く、それくらいしか突破口がなかったのもまた事実でした。


              ◇          ◇          ◇


    事態が動き出したのは、リドルフィがある男に接触したところからでした。

    チャールズ・ベイリー。

    数ヶ国語に通ずる彼が、暗号の運び屋に選ばれたと密告によって知らされてからです。
  • No:607 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part602 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/06/12 08:55:50 単表示 返信

    ベイリーはメアリーとそれなりに親しく、また教皇特使でした。

    疑いの余地なく旧教派にしてメアリー派であり、メアリーが目を付けられて動けなくなった後は積極的に各地を飛び回っていました。

    ですので「信頼できる連絡員」としてリドルフィが彼を雇ったのは必然でありました。

    ・・・・・・まあもっとも、人格はあまり信用できない類だったようですが。


              ◇          ◇          ◇


    ベイリー自身はともかく、バックの教皇らは流石に狡猾かつ慎重で、臨検されても一見何の変哲もない手紙に見えるようにしていました。

    実際手紙を押収されたこともありましたが、偽装を突破できずに返却されています。

    手詰まりを感じたセシルは更なる一計を案じます。

    元私掠船員のウィリアム・ハールを彼に接近させたのです。


              ◇          ◇          ◇


    後に国会議員と保安官を兼任することになるウィリアム・ハールは、私掠船員やってる頃からセシルに秘密諜報員として雇われていました。

    表向きは陽気な荒くれを装う彼は、人と打ち解ける術に長けていました。

    瞬く間にベイリーの信用を勝ち取り、その動向を逐一セシルに送信していたのです。


              ◇          ◇          ◇


    そしてまんまとベイリーは罠にかかり、真の手紙を押収され拷問にかけられました。

    ただこの時点ではベイリーは暗号の解読を頑なに拒否し、捜査はまたしても暗礁に乗り上げたかに思われました。

    しかし。

    周到なセシルは更なる矢を用意していたのです──────
  • No:608 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part603 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/06/19 16:50:54 単表示 返信

    この時期ロンドン塔投獄仲間にジョン・ストーリーという男がいました。

    300年くらい後に殉教者として列福される者なのですが・・・・・・

    そう名乗る人物が、ベイリーの前に現れたのです。


              ◇          ◇          ◇


    ジョン・ストーリーとは何者であるかを軽く説明しますと。

    端的に言ってゴリッゴリの旧教派です。

    下半身王が私欲のために準備したイングランド国教会の地固めとして制定を命じた礼拝統一法に大反対し、聖書の一節を引用して「王が幼いからって好き勝手抜かしてんじゃねーぞ」(意訳)と叫んで牢屋ぶち込まれたくらいの強硬過激派でした。

    釈放されるや否やルーヴァンに亡命して捲土重来を図り、同じ旧教強硬派のメアリー1世が即位するなり舞い戻ってきて嬉々として異端者(旧教視点)を粛清して回った筋金入りです。


              ◇          ◇          ◇


    エリザベス時代になって彼は国会議員となり、あちこち旧教派として転戦していましたが・・・・・・

    いい加減うざくなったのか、法に記された礼拝行ってないことを理由に再びGo to 監獄されました。

    その後今度はスペインに亡命し、同じく亡命して来た信者達の世話係をしていましたが・・・・・・

    偽装された貿易船に誘い込まれ、そのままNice boat.されて現在に至ります。


              ◇          ◇          ◇


    彼はイングランドから逃げてきた旧教難民の間ではかなり有名であり、ベイリーも立場上名前くらいは知っていました。

    しかしながら。

    当時新聞はようやく芽が出始めたばかりの状態で、100年後でもごく一部の裕福層にしか読めないような有様だったので・・・・・・

    有名人の顔なんてものは知りようがなかったのです。
  • No:609 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part604 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/06/26 08:46:34 単表示 返信

    偽ジョン・ストーリー(パーカーという男だったと言われています)はベイリーを同志と呼び、このロンドン塔から出てメアリーに尽くす方法を教えました。

    「無関係な手紙の暗号を解いて見せれば、ウィリアム・セシルも君を信用するだろう」と。

    ・・・冷静に考えればえ~誠にござるかぁ~? な話ではあるのですが。

    ベイリーは大物ジョン・ストーリーの名声に、すっかり目が眩んでしまったのです。


              ◇          ◇          ◇


    まあ解読拒否の建前の中に「これは知らない暗号だ」というのもあったかも知れません。

    当時の暗号はシーサー暗号と呼ばれるものが主流で、これはAをZに、Bを0にといった1対1の文字の置き換えをしてパッと見わからなくしたものです。

    実はこれには弱点がありまして・・・・・・

    特に英語の場合頻出文字というのがあり、統計的に文字対応が割れてしまうのです。


              ◇          ◇          ◇


    例えば最も出てくるアルファベットは「E」で、その次が「T,A,O,N,I,R,S,H」です。

    更に言うと2文字の頻出パターンというのもありまして、「TH」や「IN」などが相当します。

    3文字になるとほぼ単語や接頭語・接尾語となり「THE」「AND」「ING」「ERE」などが挙げられます。

    こういう繰り返し出てくるパターンというのは目立ちますので、なんとなく眺めていても法則性が浮かび上がってきます。

    ですので解読時間こそかかりますが、知識があるものが見れば大体解読されてしまうものでした。


              ◇          ◇          ◇


    ちなみに。

    この手法は暗号解読だけでなく、未知の言語にも適用できる可能性があります。

    原理的に表意文字で構成されている言語には使えませんが・・・・・・

    アルファベットのような少数文字の組み合わせで単語を表すような言語なら、解読できることがあるのです。
  • No:610 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part605 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/07/03 08:42:01 単表示 返信

    このシーザー暗号の歴史は古く──────名前からして古代ローマ皇帝が由来ですから当然ではありますが──────それ故に解読手段が確立されてしまっています。

    理由は前述した通りですが、これでは暗号としての意味をなしません。

    根本原因は文字が一対一対応しているために統計手法がよく効いてしまうことにあります。

    故に単一換字式暗号とも呼ばれるのですが・・・・・・

    ならば一対一でなくしてしまえばいい、と様々な暗号が考案されていくことになります。


              ◇          ◇          ◇


    今回メアリー一派が用いていたのはノーメンクラタ暗号と呼ばれるもので、文に「ノイズ」を混ぜることで目眩ましの煙幕を張るというものです。

    冗字とも呼ばれるそれを適宜混ぜることで統計情報を乱して対応表を見破られにくくし、更に一部の単語を短縮した数文字に割り当てることで一対一の法則を崩し、解読をより一層困難にします。

    事実セシル一派は、当初この暗号を一部しか解読出来ていません。

    だからこそ運び屋を二重三重の罠にハメた訳です。


              ◇          ◇          ◇


    ちなみに。

    この暗号も無敵という訳ではなく、いくつかの弱点が存在します。

    一つが所詮単一換字式暗号に毛が生えたものなので、虫食い状態ではあるものの結構な部分が解読されてしまうことです。

    まあ証拠として使うには話にならない訳ですが・・・・・・

    それでもどんな話が書いてあるかくらいは読み取れてしまいます。

    "的"を絞るには十分という訳です。


              ◇          ◇          ◇


    もう一つが、暗号対応表「コードブック」が結構な分量になるため管理に重大な問題を抱えていることです。

    アタリマエですがコードブックが見つかってしまっては暗号などないも同じです。

    それなりの分量があるため本棚なんかに隠した日には見る者が見ればすぐバレるでしょう。

    しかも同じコードをずっと使っていれば統計的に突き止められるリスクが増すばかりなので、定期的にブックは更新しなければなりません。

    まあもっとも。

    今回マヌケの所為で、これらの弱点突かれる前に解読されてしまった訳ですが。

    こればっかりはどれだけ技術が発展しようともどうしようもありませんわね。
  • No:611 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part606 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/07/10 08:47:39 単表示 返信

    もっとも。

    今回のようなヒューマンセキュリティホールがなかったとしても、単一換字式暗号が脆弱なことに変わりはありません。

    なのでこの時期、より強固な暗号の研究が盛んに行われました。

    その中でも直近も直近、1586年に発表された新しい概念の暗号方式があります。

    ヴィジュネル暗号。

    単一換字式暗号の欠点を完全に克服した多換字式暗号と呼ばれるそれは、現代暗号の基礎を築いたと言っても過言ではないほどの画期的な暗号だったのです──────


              ◇          ◇          ◇


    ヴィジュネル暗号も、暗号対応表を必要とするところまでは同じです。

    しかしこの暗号の画期的なところは、一対一の対応ではなく二対一の対応であることにあります。

    横軸が平文のアルファベットで、縦軸がキーワードと呼ばれる暗号鍵フレーズの対応を示しています。

    平文とキーワードを頭から順に見ていき、表にあった文字が暗号化後の文字となります。

    文字だけだと少々解りづらいので、一つ例を出しましょう。


              ◇          ◇          ◇


     ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ
    -+---------------------------
    A|ZAZAZAZAZAZAZAZAZAZAZAZAZA
    B|YBYBYBYBYBYBYBYBYBYBYBYBYB
    C|XCXCXCXCXCXCXCXCXCXCXCXCXC
    D|WDWDWDWDWDWDWDWDWDWDWDWDWD
    E|VEVEVEVEVEVEVEVEVEVEVEVEVE
    F|UFUFUFUFUFUFUFUFUFUFUFUFUF
    G|YGYGYGYGYGYGYGYGYGYGYGYGYG
    H|SHSHSHSHSHSHSHSHSHSHSHSHSH
    I|RIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRI
    J|QJQJQJQJQJQJQJQJQJQJQJQJQJ
    K|PKPKPKPKPKPKPKPKPKPKPKPKPK
    L|OLOLOLOLOLOLOLOLOLOLOLOLOL
    M|NMNMNMNMNMNMNMNMNMNMNMNMNM
    N|MNMNMNMNMNMNMNMNMNMNMNMNMN
    O|LOLOLOLOLOLOLOLOLOLOLOLOLO
    P|KPKPKPKPKPKPKPKPKPKPKPKPKP
    Q|JQJQJQJQJQJQJQJQJQJQJQJQJQ
    R|IRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIRIR
    S|HSHSHSHSHSHSHSHSHSHSHSHSHS
    T|GTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGTGT
    U|FUFUFUFUFUFUFUFUFUFUFUFUFU
    V|EVEVEVEVEVEVEVEVEVEVEVEVEV
    W|DWDWDWDWDWDWDWDWDWDWDWDWDW
    X|CXCXCXCXCXCXCXCXCXCXCXCXCX
    Y|BYBYBYBYBYBYBYBYBYBYBYBYBY
    Z|AZAZAZAZAZAZAZAZAZAZAZAZAZ

    ↑が暗号変換表の例です。

    そして

    平文 :MARYSTUART
    暗号鍵:ENGLAND

    とします。

    平文文字数に対してキーワードの文字数が足りてませんが、こういう場合は頭から繰り返します。

    そうしますと

    平文 :MARYSTUART
    暗号鍵:ENGLANDENG

    となり、暗号化の準備が完了します。

    では実際に暗号化して行きましょう。


              ◇          ◇          ◇


    平文の最初の文字が「M」でキーワードが「E」ですから、表に照らし合わせた暗号化後の文字は「V」となります。

    以下同様に暗号化すると以下のようになります。

    暗号文:VMGOZNWVEG

    この暗号文には「G」と「V」が2回出てきますが、最初の「G」は「R」で最後の「G」は「T」に対応しており、ものの見事に別文字に化けています。

    「V」も最初が「M」で次が「A」です。

    このように統計学的解析が全く通じなくなる優れた暗号なのです。
  • No:612 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part607 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/07/17 08:59:16 単表示 返信

    このように優れた難読化を達成するヴィジュネル暗号ですが・・・・・・

    暗号強度の大幅な強化と共に、注目すべき革新的な機能が2つあります。

    順に見ていきましょう。


              ◇          ◇          ◇


    まず1つ目は「暗号鍵概念の導入」です。

    従来の暗号は元文と変換表の二要素しかなく、コードブックが発見された時点でおしまいでした。

    しかし第三の要素を導入することにより、暗号表が見つかったところで直ちに影響はないのです。

    更に言うと暗号鍵は大抵短文ですので、秘匿性に優れています。

    それこそブックカバーの裏に書いてもよし、ネクタイの裏地に縫い付けてもよしです。

    かさばる暗号表を隠すより遥に優れています。

    これがヴィジュネル暗号が画期的であることの理由その1となります。


              ◇          ◇          ◇


    ちなみに。

    極端なことを言うと暗号表は公開してしまってもいいくらいで、実際現代の暗号は暗号表が大々的に公開されているものが主流です。

    正確に言うと暗号表を生成する方程式が公開されています。

    その代わりと言ってはなんですが暗号鍵が2つに増えており、暗号化する鍵と復号化する鍵に別れています。

    これら2つの鍵は必ず同時に生成され、片方で暗号化したもの以外はもう片方で復号化できません。

    どうしてそうなるかは以前聞いたのですが・・・・・・

    ぶっちゃけ全く理解できませんでしたわええ。


              ◇          ◇          ◇


    そして画期的発明2つ目が「一つの要素から他要素を類推することがほぼ不可能」という点です。

    単一換字式暗号最大の欠陥は暗号表がなくとも類推できてしまうところでしたが、このヴィジュネル暗号にそのような脆弱性はありません。

    何故かと言いますと先程お話したように暗号鍵は足りなければ頭に戻って繰り返ししますので、暗号鍵の長さを推し量ることすら困難になっているからです。

    仮に暗号表を手に入れたとしても縦軸の該当文字が全くわからないので、統計的推論をすることもできません。

    総当たりで意味が通じる文を作り上げるとしても膨大な試行錯誤が要求されますし、何よりその結果が正しいかを保証する手段がないのです。

    この特性からわかるように、暗号鍵が類推さえされなければほぼ無敵と言っていいです。

    あくまで"この時代では"とただし書きがつきますが。
  • No:613 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part608 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/07/24 08:55:22 単表示 返信

    と言いますのも。

    後にこの無敵の暗号の突破口が開かれたからです。

    チャールズ・バベッジ。

    その筋では超有名なこの数学者が、条件付きではありますが暗号鍵を知ることなく解読する方法を考案したのです。


              ◇          ◇          ◇


    彼はコンピューターの父と呼ばれ、「プログラミングできる機械」の構想を最初に考案した偉人です。

    元々は三角関数表等のやたら量のある表を自動出力できないかと考えられたもので、彼が考案した表印刷マシーンは階差機関と呼ばれます。

    まあ、バベッジ自身は次の自動計算機械「解析機関」に夢中になったため半ば頓挫していましたが。

    しかし彼が考案した革新的なアイディアが、現代のコンピューター理論の礎になったこともまた事実です。


              ◇          ◇          ◇


    階差機関/解析機関が如何様なものであったかは機会があったらということで。

    ヴィジュネル暗号の話に戻しますと・・・・・・

    バベッジはこの一見めちゃくちゃな文字の羅列に法則性を見出します。

    諸事情によりカシスキーテストと呼ばれるこの方法は、取っ掛かりすらなかったヴィジュネル暗号解読に大きな光明をもたらしたのです。


              ◇          ◇          ◇


    さて。

    この画期的手法に言及する前に、ヴィジュネル暗号のプロセスをもう一度見てみましょう。

    1.暗号表を共有する
    2.暗号鍵を共有する
    3.平文を暗号表と暗号鍵を突き合わせて暗号化していく
    4.暗号鍵が足りなくなったら頭から使い回す

    重要なのは4でして・・・・・・

    これは即ち、暗号文に周期性があることを示しているのです──────
  • No:614 タイトル:GEAR戦士撫子 新Part609 お名前:プロフェッサー圧縮 投稿日:2024/07/31 08:50:30 単表示 返信

    周期性があるとどうなるか?

    細かいとこ端折って説明しますと暗号鍵の長さがわかるということです。

    暗号鍵の長さが割れるとどうなるか?

    一度は封じられた頻度分析が使えるということなのです。


              ◇          ◇          ◇


    英語には頻出文字があると先に述べました。

    頻出と言うからにはそこら中に出てくる文字でありフレーズです。

    つまり。

    平文と暗号鍵の対応位置が『偶然』一致する箇所が長文なら『複数』紛れているということであり。

    それは長文であればあるほど確率が上がるということなのです──────!


              ◇          ◇          ◇


    要するに。

    暗号鍵の長さが割れてしまえば、暗号文上は違う文字であっても同じ文字として頻度分析に掛けられるということです。

    ここまで来たら単一換字式暗号と何も変わりません。

    かくして突破不可能とされていたヴィジュネル暗号の解読法が編み出されたのです。


              ◇          ◇          ◇


    ただし。

    この手法さえあれば、どんなヴィジュネル暗号も突破できる訳ではありません。

    最初に暗号文が周期性が見いだせる程度に長い必要があり、そして大抵は手紙のペラ一枚では到底足りません。

    なので全く同一の暗号表と暗号鍵が用いられてる、と確信できる大量の暗号文が必要です。

    小説や映画で何日も盗聴しているのはこれが理由です。